M&A Column

華麗なイグジットに向けて。イグジットの種類を解説

 

Processed with VSCO with c1 preset

 

2016年11月1日に「マウジー」や「スライ」を展開するバロックジャパンリミテッドが東証一部に上場した。ファッション関連のIPOは、2015年9月にマザーズに上場したSTUDIOS(現Tokyo Base)以来となり、全体的に売上が低迷しているファッション業界にとっては明るい話題となった。

バロックジャパンリミテッドは上場によって事業資金を得ることができ、すでにエンフォルドやマウジーがニューヨック初出店するなど海外展開を進めており、今後さらなるグローバルな事業拡大が期待されている。

IPOは、経営者やファンドなどが投資をした資金を回収する「イグジット」と呼ばれる区切りでもあり、出口戦略のひとつとされている。景気の変動や市場の変化などさまざまな経営リスクに備える戦略として考えられるイグジットをいくつかご紹介する。

①親族内継承
親族内継承は、日本の中小企業で一番多いと言われている。
会社を自分の子どもや親族に継がせたいと世襲を願う経営者は多く、従業員に経営を継承する難しさからも、親族内継承が一般的になっている。親族ではない従業員を後継者にする場合は、後継者となる従業員が株式を取得する資金を用意する必要があり、それがハードルになることがある。

②IPO
IPO(株式上場)は経営者の憧れのひとつ。
厳格な基準を満たし厳しい審査を通った企業のみが与えられる権利であり、上場といった経営者の憧れを達成するには大変な苦労と準備が必要だ。

ファッション業界に特化した求人サイト「Fashion HR」を運営するキャリアインデックスは、2016年12月14日に東証マザーズに上場が決定した。経営者、関係者の方々の相当の努力があってのことで、簡単に上場が叶うことはない。

経営者は、IPOまでに投資した資本の一部を回収し利潤を得ることができることが出口の要素となるが、IPO後も経営から退くことはなく、新たな株主からさらなる成長を期待されることになる。

③M&A
イグジットと呼ばれるもっとも相応しい出口戦略はM&Aだ。
実際にIPOよりも圧倒的に数が多く、IPOは経営者が継続して経営が行える一方で、M&Aでは経営権を買い手側へ譲渡し、経営から離れるといった出口的な意味を持つ。

M&Aは、IPOに比べると事前準備や必要経費が少ないためハードルが低いこと、資本をもつ大企業が成長戦略の一環として新規事業や技術を買う方法としても盛んになっている。経営者はM&Aで経営権を手放し事業から離れる選択をする、もしくは経営権を失っても代表者として引き続きビジネスの成長に関わるケースもある。

④MBO
所有と経営が分離した会社で会社経営陣が事業の継続を前提として自社などの株式を取得するMBO(マネジメント・バイアウト)。元の会社の所有者(株主)からの観点でイグジットの方法の一つと言われている。

ファッション最大のEC「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイが2013年7月に「STORES.jp」を運営するブラケットをM&Aで完全子会社化したが、2016年10月にブラケットはスタートトゥデイから株式を100%取得するMBOを実施している。所有と経営を一致させることを目的とすることがMBOであり、元の所有者はイグジットし、新たな所有者兼経営者は、事業の目標に邁進することになる。

「ビジネスの継承を考えることも、経営者のミッション」といった覚悟が必要だ。
親族内継承、IPO、M&A、MBOなどのイグジットをした場合でも、そこが出口ではなく、そこから新たなビジネスや事業をスタートする経営者も多い。
イグジットで成功された経営者を、「華麗なイグジット」と表現する言葉があるが、戦略としてさまざまな出口あることを知っておくとよいだろう。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。

中小企業でもM&Aは可能なのか?買い手の注目ポイントをチェック

Processed with VSCO with c1 preset

テレビや新聞、ネットなどのメディアで、株式取得、子会社化、経営統合などのM&Aに関するニュースを、以前にも増して耳にすることが多くなった。目にする企業は規模が大きく知名度が高い会社が多く、M&Aは大企業同士が行うものと思われがちだが、実際は、年間M&A件数の7割は中小企業が関わっている。

M&Aは中小企業にとって疎遠なものでない。むしろどんな会社でもM&Aに関わる可能性がある。「小さな会社でも買い手がいるのか?」と半信半疑に思うかもしれないが、買い手が注目するポイントを考えて、その可能性を検証してみるとよいだろう。

財務諸表

買い手が最初にすることは、あなたの会社の経営状況を知ることだ。判断する材料として財務諸表が使われる。会社の貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書から読み解くポイントは以下の通りである。

・経常利益、純資産
健全な経営を行ってきたか?利益を出しているか?利益の蓄積をしているか?

・借入金
事業の投資に対して借入金の金額は妥当か?借入金の使い道は?借入金を含めた買収で今後の事業の利益で回収できる見通しが立つか?アイキャッチ画像を削除

・役員報酬・人件費
役員報酬の金額は経常利益の調整をする役割になっていないか?利益を出すために一時的に人件費を抑えていないか?社会保険未加入、未払残業代などのコンプライアンス違反はないか?

・株主構成
会社の株式をどの人がどの程度もっているのか?100%株を取得できるか?好ましくない株主が含まれていないか?

上記は一部であり、買い手の注目するポイントはさまざまだが、魅力的な会社と判断されるような財務諸表を準備しておく必要がある。

会社の魅力

買い手が決算書よりも注目するポイント、それはあなたの会社の強みである。技術、マーケットシェア、地域性、人材、ビジネスモデル、情報、システム、海外ビジネスなど買い手はあなたの会社の魅力に興味を持つ。

ファッション業界で具体的な例を挙げると、M&Aは下記のようなポイントが買収の決め手となっている。

• ノウハウの獲得
• 優れたデザイン力の内製化
• 売り手の主要客層の獲得
• より広範なマーケットを取り込み事業拡大

M&Aは中小企業でも盛んに行われていて、大企業に限ったことではない。M&Aによって買い手側の事業戦略が達成できるかがもっとも重要な判断基準になるが、M&Aアドバイザーなどの専門家は、会社の売上規模や知名度に関係なく、会社の財務諸表や強みをベースに考え、買い手がつく可能性があるかどうかを検討しているのだ。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。